当時は流行から外れていた恵比寿の片隅にロッククラブ「みるく」ができたのは1995年だった。
バブルが弾けたあと、「失われた90年代」と呼ばれたあの時代に、みるくはそこだけ別の小さな宇宙のようにエネルギーがあふれた場所だった。
ダンスクラブではなくロッククラブ。毎晩DJとライブバンドが出演するけれど、普通のライブハウスのように演奏が終わったらすぐ終了ではなくて、演奏の前も後も、深夜まで寛いで遊んでいられた。メインフロアでライブをやっていても、ほかの部屋では勝手に飲んで騒いだり、小声で口説いたりできる、そういうロッククラブだった。
あのころ、ドキドキしながら年を隠して夜遊びし始めた子どもたちが、いま40代から50代。その子どもたちがいま20代で夜遊びデビューのお年頃。そうしてみんながいま、いちばん胸を熱くしてるのが90年代の音楽だ。オアシスがいて、ジャミロクワイがいて、ビョークもニルヴァーナもいて。もちろんTRFも渋谷系もいて。
ビルの地下、2フロアをまるごと使った「みるく」のような空間はもうない。でも、いまいちばん聴きたい、あのころの音楽を浴びながら、あのころみたいな暗い場所で、昼間のことをぜんぶ忘れて騒いだり、仲良くしたりできる、そんな時間を甦らせたくて、小さなみるくをつくる。